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アニメ『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』第一話はもっと評価されるべき

この記事は、はてなブログベータテスト用に自分のはてなダイアリーの下記記事を転載したものです。
http://d.hatena.ne.jp/mame-tanuki/20120108/sorawoto_rebroadcasting



 ちょうど2年前に放送されたアニメノチカラ 第一弾作品の『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト神戸守監督)がテレビ東京で先週から再放送を開始しました。

2012年1月4日より 毎週水曜日 深夜3時40分~
テレビ東京にて再放送開始



http://www.sorawoto.com/news/index.html#111227

 ちなみに現時点では、動画配信サービス「ShowTime」にて第一話のみは動画を無料視聴可能。先週のテレビ東京の再放送第1話を見逃した、録り逃したという人もご安心を。

 『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』という作品は、今なら『侵略!イカ娘』や『星を追う子ども』、『スマイルプリキュア!』の金元寿子の主役デビュー作と言った方が分り易いでしょうか。そんなアニメ『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』は、キャラクター原案の岸田メル氏によるキービジュアル とあまりに違うアニメのキャラクターデザインが、どちらかと言えば『けいおん!』と似ていると言われ、日常系萌えアニメ人気の風潮に安易に乗った作品として放送当初から批判的な目で見られていたように思います。あと、OPがクリムト過ぎるだろwww とか。

 しかし『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』というアニメは、かなり丁寧に作られた、「アニメノチカラ」企画の先陣を担うに相応しいオリジナルアニメの良作だと思います。それは第一話のアバンからOP主題歌、サブタイトルまでの一連のシーンを見ただけでも分ります。この第一話冒頭の4分弱は一見の価値があると思います。

■物語の世界設定をざっくりと説明するアバン

 アバンタイトルは、廃墟の中で一人の女の子が泣いているシーンから始まります。兵士の姿を描いた壁の落書きが、戦争の影を臭わせます。
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 そこへ緑色の軍服を身に纏い、眼を引く金髪の長い髪で、手には金色のトランペットを持ち、涼やかな音のする鈴のネックレスをした女性軍人が登場し、泣いている女の子に優しく声をかけます。モノクロームな映像の中で部分的に色が付いている箇所がありますが、これは女の子の視線、あるいは女の子の記憶に強く焼き付けられた光景を示しているという演出でしょうか。
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 場面は転じて、シュッシュッポッポと音を立てて走る貨物列車の貨車の中で、トランペットを抱えて一人の少女が眠っています。先ほどのシーンは、この眠っている少女が見ていた夢なのでしょう。
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 同じ貨車の中には少女の他に数名の兵士が居て、何やらカードゲームに興じています。彼らの会話から今は戦争が休戦になってから半年であり、彼らはどうやら戦場から故郷へと帰る復員兵だと分ります。
 『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』放送時に「国境の警備を少女だけの部隊に任せるとか、あまりに非現実的な設定で萎える」みたいな感想をネット上でチラホラと見かけましたが、ここで描かれているように、少女は戦場から故郷へと兵士たちを運ぶ復員列車に乗っています。つまり、少女がこれから向かう先、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』の舞台である国境の町セーズは戦場とは真逆の方向。まさかまさか敵が大迂回して攻めて来るなんて事は"想定外"な、そんな世界の果てとも言える辺境の地なのです。
 さらに、続く少女と彼女にキャラメル缶をあげた復員兵の軍曹との会話で、休戦によって今は徴兵を行っていない事、しかし「ラッパ手に親切にしておくと、退却ラッパが良く聞こえるってな」という軍曹のセリフから、この平和は永続的なものではなく束の間のものであり、復員兵が再び戦場に戻る日が遠からず来る事を人々が予感している事が暗示されます。
 また、少女が語る軍に入った志願動機から、この世界は、音楽を習うためには軍隊に入らねばならないような、現代の日本とは大きく異なる状況であることも分ります。
 小道具からもこの世界が我々が暮らす世界とは異世界であることが見て取れます。
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 兵士たちが遊んでいるカードは、花札とトランプがミックスしたような妙な絵柄です。キャラメル缶の絵柄もグリコっぽいけど何か違う感じです。
 このように僅か2分間のアバンの中で、今は休戦中であるけれど主人公の少女が小さな頃から続いていた戦争が続いていて、戦場の通信がラッパだったり鉄道が蒸気機関車だったりと現代の日本より科学技術水準が低い異世界で、音楽を習うためにラッパ通信士として主人公の少女が志願兵となる、という物語の沿革が描かれています。

■物語の主要キャラクターをざっくりと説明するオープニング

 そして、この物語の主人公である少女が「空深 彼方 (ソラミ カナタ)であります!」と名乗りを上げると作品タイトルが表示され、Kalafinaが歌うOP主題歌「光の旋律」が流れます。
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 OPをBGMに、主人公のラッパ通信士カナタ二等兵を乗せた復員列車は走ります。そして途中でカナタは復員兵士たちとは別れを告げ、物語の舞台であるセーズの町へと向かう旅客列車に乗り換えます。この一連のシーンで、初対面の兵士たちともすぐに打ち解ける人懐っこさや、感情の豊かさなど、主人公カナタの性格を窺い知ることが出来ます。
 このシーンと並行して交互に、カナタを待ち受けるセーズの街の時告げ砦に駐屯する(動かないけどw)戦車小隊・第1121小隊の四人の少女たちが映し出されます。四人の少女たちが何やらクジ引きをしているシーンなのですが、これがなかなか秀逸なキャラクター紹介になっています。
 最初はクジを引く指だけが画面に描かれているのですが、そのクジを引く指の動作だけで4人のキャラクターの性格の違いを上手く表現しています。
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  • まず一番手は、躊躇う事もなく淡々とスイっと一番手前のクジを引く、クールな不思議ちゃんな整備士の寒凪 乃絵留 (カンナギ ノエル)伍長。
  • 二番手は、あれこれ迷った末に早く引けと催促されてオズオズと一番手前のクジを引く、一番年下の隊員でありツンデレ娘な砲手の墨埜谷 暮羽 (スミノヤ クレハ)二等兵。
  • 三番手は、暫しじっと思案した末に引いてくれと言わんばかりに飛び出ている一番手前の当たりクジを素直に引いてしまう、熱血先輩なラッパ通信士の和宮 梨旺 (カズミヤ リオ)曹長。
  • 3人に先に引かせて残りクジを得たのは、リオに当たりクジを引かせてしてやったりという笑顔のあらあらウフフなお姉様、小隊長フィリシア・ハイデマン少尉。

 このように、オープニングの中で物語の主要キャラクターとなる主人公を含めた5人の少女たちの個性の違いが視聴者にそっと印象付けられる作りになっています。

■手放しで評価は出来ないけど、良作

 この第一話冒頭に限らず、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』は作品全体を通じて説明的なセリフは極力排しつつも各話を見ていくうちに自然と物語全体が見えてくる作りになっていました。その点は、この作品に続くアニメノチカラ第二弾作品で満州事変前後の中国大陸を舞台としたアニメ『閃光のナイトレイドが、歴史的な背景を消化してエンターテイメントへと昇華し切れず、一部が丸々歴史解説アニメになってしまったのとは対照的です。

 『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』は『けいおん!』のキャラクターと絵柄が似ている事から『そらおん!』などと揶揄されることもありましたが、たしかに舞台が現代の日本であれば軽音楽部にでも所属していたであろう年頃の少女たちが、そういうクラブ活動的な事をするには軍隊に入るしか道が無いという世界に置かれたらどんな日常生活を送るだろうか?という問題設定が、たぶん『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』というオリジナルアニメ企画の出発点だったのではないかと思います。

 そんな日常生活の舞台となる和洋の文化がチャンポンになった不思議な世界の風景は、スペインの城壁都市クエンカとアラルコン要塞がモデルとなっており、現地ロケハンを元に丁寧に描かれています(この作品の聖地巡礼は、Googleアースを使わずにリアルに行くのはちょっと大変w)。

 この世界の正体を視聴者が解き明かすためには重要な鍵の一つとなる壊れて動かない戦車、ヴェクタ零式自立歩行戦車「タケミカズチ」。整備士ノエルによって修理されていく動かない戦車は、物語のクライマックスに向けて毎週毎週の各話で徐々に本来の姿が明らかにされ、まるで「週刊タケミカズチ」といった感じで視聴者を楽しませてくれました。

 そして最終的に浮かび上がってくる『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』の物語の世界。それは、人類が築き上げてきたものがゆっくりと衰退していく世界でした。科学技術や文化、言葉や文字、そしてそれらを次の世代に伝える教育制度が、まるで人類全体が痴呆老人になったかのように忘れられていく世界。一方で、そんな人類の黄昏を迎えても人間たちはお互いに戦う事は忘れず、一部の軍事関連の科学技術は脈々と受け継がれるという歪な世界。そんな世界でも音楽のような文化・芸術のチカラが消えて無くなることはない。そんな前向きなメッセージが、この作品の主題だったのではないかと思います。

 そんな『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』を、凡百の日常系萌えアニメと一緒にしないで欲しい!…と、放送中に熱く語りたかった所に凡百なドタバタ回を8話でやってしまい、それ以降このブログでは『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』を語らないまま今日に至ります。

 とは言え、作品全体を見れば、これまでこの記事で語ってきたように良い作品ですし、何度も見返したくなる作品です。
 今回のテレビ東京での再放送をきっかけに、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』が再評価されれると良いな、と思います。

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